組織は、なぜモグラ叩きをやめられないのか?

組織は、なぜモグラ叩きをやめられないのか?

組織って、本当に不思議です。

問題を解決するために、みんなで一生懸命「改善」を繰り返しているのに、なぜか改善すればするほど、現場が疲弊していく。そんな経験はありませんか?

  • 会議を増やした
  • KPIを細かく整えた
  • 最新のAIを導入した
  • ガッチリしたワークフローを作った
  • ガバナンスも強化した

表面上は、どんどん仕組みが整っていく。それなのに、なぜか現場の負担は減りません。

今、多くの組織で起きているのは、目の前のトラブルをその場しのぎで潰し続ける「終わらないモグラ叩き」です。

良かれと思って打った施策が、気づけば現場をじわじわと締め付けていく。 多くの組織は「改善していない」のではありません。むしろ逆です。

「解決しようとしすぎて、ルールやシステムを増やしすぎている」

それこそが、問題をこじらせる原因になっています。

「見える化」して「標準化」したはずなのに、本当に重要なものほど見えなくなっていく。

そして問題は、このモグラ叩きが単に「現場が大変」という話では終わらないことです。それは、企業価値そのものを静かに壊していきます。

投資家は、その「モグラ叩き」による企業価値の毀損リスクを見ている

「現場が疲れているだけなら、業績が出ているうちに直せばいい」

もし経営陣がそう考えているなら、それはかなり危険です。なぜなら、このモグラ叩き体質は、企業の「本当の価値」を静かに壊していくからです。

投資家や市場が見ている企業価値(フェアバリュー)というのは、突き詰めれば次の2つです。

  1. 将来、どれだけ安定してキャッシュを生み出せるか
  2. そのキャッシュが、どれだけ不安定で壊れやすいか

つまり、「この会社は、ちゃんと持続可能なのか?」を見ています。

モグラ叩きが常態化している会社は、外から見ると業績が良くても、内部では「人間の無理」によって辛うじて成立しているケースが少なくありません。それは投資家から見れば、「今は回っている。でも、いつ壊れてもおかしくない」という極めてリスクの高い状態です。

具体的には、以下の3つのルートで企業価値が破壊されています。

1. 「見えないコスト」が未来の投資原資を食い潰している

これらは会計上は見えにくいですが、実際には巨大なコストです。

  • トラブルが起きるたびに、優秀な人材が集まり火消しをする
  • 同じミスが起きるたびに、手戻りと深夜残業が発生する
  • グループウェアの裏DMでの「あの人だけが知っている」運用や例外処理

本来、未来への投資に使われるべきだった時間と集中力が、「今日壊れないようにするため(火消し)」だけに消えていく。会社は成長しているように見えて、実際には未来を食い潰しています。

2. 不透明な組織は「高リスク企業」として割り引かれる

外から見ると順調。でも中を開けると、特定個人の超人的努力や、ブラックボックス化した裏運用、AIの裏側で行われる大量の「人間補正」によってギリギリ成立している。これは投資家からすると、「統制(コントロール)が効いていない会社」です。

しかも怖いのは、こういう会社ほど「表面的には優秀」に見えることです。現場が必死に補正してしまうからです。本当は壊れているのに、人間が血を流しながら支えてしまう。だから数字には問題が見えない。しかし市場は、そういう「再現性のない安定性」を嫌います。

3. 「火消し」が英雄になる組織から、まともな人が消えていく

モグラ叩き組織の最大の悲劇は、評価制度の歪みです。本来評価されるべきなのは、「そもそも問題が起きない構造を作った人」のはずです。しかし実際には、「大炎上を寝ずに止めた人」がヒーローになります。

問題は、「火消し能力」が評価され続けると、組織が「火事を前提」に進化し始めることです。根本改善より緊急対応が優先され、仕組み化より属人的エースが重宝される。そして最後には、「まともな構造を作ろうとする人」から辞めていき、組織に残るのは「燃えている状態に適応した人」だけになります。

一般的な解決策…でも、実はそれだけでは直らない ここで、多くの組織は「正しい改善(一般的な解決策)」を試みます。

  • 火消しではなく予防を評価しよう
  • 属人化した作業を可視化して、ナレッジを共有しよう
  • ワークフローを統一し、マニュアルを徹底しよう

教科書的には、全部正しい。「見える化」して「標準化」すれば、今度こそ問題は解決するはずだと誰もが信じています。

でも現実には、多くの組織でこれが失敗します。なぜなら、その「正しいはずの予防策」そのものが、現場で新しいモグラ(問題)を生み出してしまうからです。

「改善策」が新しい問題を作り始める

ルールやチェックを厳しくすると、現場では何が起きるでしょうか。

  • 管理を強化するためにKPIを増やす ➔ KPI入力のための作業が増えて現場が疲弊する
  • チェックを厳しくするために会議を増やす ➔ 会議準備のために本来の仕事が止まる
  • 効率化のために最新のAIを導入する ➔ AIの誤出力を人間が裏で修正する業務(新たな属人化)が生まれる
  • ガッチリしたワークフローを作る ➔ 正規フローの承認が遅すぎて、裏ルートが発達する

構造が壊れているときにルール(施策)だけ増やすと、それを突破して業務を成立させるための「人間補正」がさらに増殖します。結果として、より複雑で、より見えにくい「高度なモグラ叩きシステム」が完成してしまうのです。

実際のところは…ルールより強い「現場の現実」

なぜ、正しいルールほど現場で嫌われ、定着しないのか。ここが、多くの改善活動で最も見落とされている部分です。

現場は、サボっているわけではありません。むしろ逆です。 現場は、「今の構造のまま、会社を止めない」ために、あえて裏運用や人間補正を発達させています。多くの「問題行動」は、現場の怠慢ではありません。構造が不足している場所を、人間が代わりに身を挺して埋めているのです。

現場の本音はこうです。

「そんなことを丁寧にやっている時間がない」 「毎回その手順を踏む意味(価値)を感じない」 「正規ルートより、こっちのやり方の方が圧倒的に早い」

つまり、現場の意識が低いのでも、ルール違反が起きているのでもありません。「施策側の設計(ルール)」と「現場の現実(時間・環境の制約)」がズレているのです。

そして重要なのは、裏運用や人間補正は「悪い習慣」ではなく、構造が不足している場所に発生した「代償反応」だということです。だから、裏運用を禁止しても問題は消えません。構造が変わらない限り、別の場所からまた新しい「補正」が生まれるだけです。

消えた属人化は「透明化」して潜伏する

属人化をなくそうとしてマニュアルを作っても、属人化は消えません。ただ、見えなくなるだけです。

綺麗な業務フロー図の裏で、「先にあの人に話を通しておく」「この案件だけは例外処理」「本当はここで裏確認している」という「見えない運用」が本体になっていく。

属人化は解消されたのではなく、「透明化」したのです。 以前は「あの人しかできない」が見えていた。今は「誰でもできるように見える」のに、実際には裏で誰かが補正している。この状態は、内部に疲弊と依存を静かに蓄積させます。

AIの導入も、この問題をさらに加速させます。構造が壊れたままAIを入れると、AIの前処理を人間がやり、AIの出力を人間が修正し、AIが失敗した時だけベテランが出てくるという、「AI+見えない人間補正」という、より見えにくい新しい属人化を生むだけです。

施策を入れる前に「前提環境」を組み替えろ

多くの組織は、「問題をどう解決するか(どのルールを入れるか)」を考えています。でも、本当に先に見るべきなのは、「なぜ、その問題を人間が補正しないと成立しないのか」です。

本当に見るべきなのは、「誰が頑張っているか」ではありません。 「この組織、本当は『何』によって回っているのか?」です。

ルールか。人間補正か。暗黙知か。それとも、誰かの善意や自己犠牲か。 そこを見ない限り、どんな改善も表面的になります。

どんなに正しいルールであっても、それを実行するための「時間」や「環境」が整っていなければ、その施策は現場に新たな犠牲を強いるだけです。

必要なのは、現場に「もっと頑張れ」と教育することではなく、現場が「そう動かざるを得ない」前提環境そのものを分解することです。

  • なぜ、その工程は無駄に複雑なのか?
  • なぜ、正規ルートはそんなに遅いのか?
  • なぜ、人間補正がないと成立しないのか?

そして、「現場が無理をしなくても、自然に正しく回ってしまう構造」へと、環境そのものを再設計するのです。

モグラを叩くな。モグラが湧く構造を見ろ

組織が本当に向き合うべきなのは、「誰が悪いか」ではありません。「なぜ、その行動(裏運用や補正)をしないと組織が成立しないのか」という構造のリアルです。

部屋がすぐ汚れるなら、本当にやるべきことは、「掃除を強制するルール」を増やすことではなく、「どんなに頑張ってもすぐに汚れてしまう部屋(構造)」の再設計の方です。

それを放置したまま、AI、KPI、会議、ルールをどれだけ積み上げても、組織は「高度化したモグラ叩きゲーム」の会場になるだけです。

市場や投資家が見ているのは、目先の数字ではありません。

「その成長、本当に構造で支えられていますか?」 「それとも、誰かの自己犠牲で辛うじて成立していますか?」

その問いから目を逸らしている限り、組織は永遠にモグラ叩きをやめられないのです。

そして厄介なのは、組織を支えている「優秀な人」ほど、壊れた構造を延命してしまうことです。

現場が補正してしまうから、構造問題が表面化しない。 誰かが頑張ってしまうから、「まだ回っているように見える」

だから経営は、本当の問題に気づけない。

つまり、多くの組織は、「問題が起きているから壊れる」のではなく、 「人間が補正し続けることで、壊れたまま延命してしまう」のです。