戦略も、プロダクトも揃っていた
市場は定義されていました。狙う顧客も明確でした。プロダクトには競争力があり、マーケティング、営業、カスタマーサクセス、プロダクト、それぞれの施策も動いていました。
マーケティングはリードを獲得している。営業は商談を進めている。プロダクトは顧客の要望を受けて改善している。
外から見れば、Go-to-Marketに必要な要素は揃っているように見えました。しかし、各機能が動いていることと、Go-to-Market全体が一つの流れとして機能していることは同じではありませんでした。
案件は出ていた。しかし、積み上がらなかった
案件は生まれていました。受注もありました。特定のキャンペーンが大きな反応を得ることもあり、トップ営業が重要案件をまとめることもありました。しかし、その成果は継続的には伸びませんでした。
- ある施策では案件が出る。
- 次に同じ施策を行っても、同じ結果にならない。
- 営業担当者によって、商談化率や受注率が大きく変わる。
- ある市場では反応があるが、別の市場では続かない。
成果は出ている。しかし、その成果が次の成果を生む経路はできていませんでした。
部門ごとには、合理的に動いていた
マーケティングは、設定された目標に沿ってリードを増やしていました。営業は、与えられた案件の中から、受注可能性の高いものを選び、個別に商談を進めていました。
プロダクトは、顧客や営業から上がってくる要望を受け、機能を改善していました。どの部門も、自分たちの範囲では合理的に動いていました。それでも、全体としては力が積み上がっていませんでした。
マーケティングは、営業が使わないリードを増やしていると見られていました。営業は、マーケティングから渡されるリードの質が低いと感じていました。プロダクトは、営業から上がってくる要求が、どの市場や顧客に共通するものなのかを判断できませんでした。
どこも止まってはいない。しかし、一つの機能が行ったことが、次の機能の有効な行動を生む条件になっていませんでした。
Go-to-Marketは、施策の集合ではない
Go-to-Marketは、マーケティング施策、営業プロセス、価格、チャネル、プロダクト戦略を並べたものではありません。顧客が、
- 自分の問題に気づく
- 解決の必要性を認識する
- 選択肢としてプロダクトを理解する
- 検討する理由を持つ
- 社内で判断できる
- 導入を決める
- 実際に価値を得る
という一連の変化を進んでいく過程です。組織側では、その変化に応じて、
- 誰に働きかけるのか
- 何を伝えるのか
- 何を確認するのか
- いつ次へ渡すのか
- 誰が判断を引き受けるのか
- 何をもって完了とするのか
が、機能をまたいでつながっていなければなりません。
このケースでは、施策は存在していました。しかし、顧客の変化と組織の行動をつなぐ、一つのGo-to-Market経路にはなっていませんでした。
出ていた成果を支えていたもの
実際に受注へ至った案件を見ていくと、成果を支えていたのは、Go-to-Market全体の標準的な経路ではありませんでした。
トップ営業による個別調整
トップ営業は、顧客の状況に合わせて説明を変え、マーケティングのメッセージとプロダクトの価値をつなぎ直していました。
社内の前提が揃っていない場合には、部門間を調整しました。顧客側の意思決定が止まった場合には、表に出ていない関係者や懸念を見つけ、案件ごとに進め方を組み替えていました。定められた営業プロセスを実行していたというより、案件が進むために足りない条件を、その都度つくっていました。
特定施策と市場タイミングの一致
一部の施策は大きな成果を出しました。しかし、その成果には、市場の関心が一時的に高まっていたこと、既存の関係性があったこと、顧客側の予算や検討時期と重なったことなども影響していました。施策だけの力で再現された成果とは限りませんでした。
非公式な情報経路
正式なCRMや会議体とは別に、営業担当者同士の会話、個人的なチャット、特定のマネージャーへの相談によって、重要な情報が共有されていました。
- どの顧客に可能性があるか。
- どのメッセージが響くか。
- どこで案件が止まりやすいか。
有効な知識は存在していました。しかし、それはGo-to-Marketの仕組みの中ではなく、特定の人の経験と関係性の中にありました。
再現性がなかったのは、施策が悪かったからではない
成果が再現されなかった理由を、施策の良し悪しだけに求めることはできません。
- 同じキャンペーンを行っても、営業への受け渡し条件が違えば、結果は変わります。
- 同じ営業手法を使っても、顧客がその前段階で何を理解しているかが違えば、反応は変わります。
- 同じプロダクトを提案しても、顧客が解決しようとしている問題と、営業が説明する価値がずれていれば、案件は進みません。
成果は、一つの施策から直接生まれているのではありません。前の行動が、次の行動に必要な条件をつくり、その連続によって成立します。この連続がつながっていない状態で、同じ施策だけを繰り返しても、同じ成果が再現されるとは限りません。
このケースで本当に必要だった挙動
このケースで目指すべきだったのは、単にリード数や商談数を増やすことではありませんでした。必要だったのは、次のような行動が機能をまたいで生まれ続ける状態です。
- 狙う顧客について、各機能が同じ具体像を持っている
- 顧客の状態に応じて、適切なメッセージと行動が選ばれる
- マーケティングがつくった顧客理解が、営業の判断に使われる
- 営業が得た知識が、マーケティングとプロダクトへ戻る
- 顧客が次の段階へ進んだことを、共通の基準で判断できる
- 次の役割へ渡す情報と、渡すタイミングが明確になっている
- 案件が止まった理由が、個人の記憶ではなく組織に残る
- 特定の営業担当者が毎回つなぎ直さなくても、案件が前へ進む
- 一度の成果から得た知識が、次の成果を生む条件として蓄積される
Go-to-Marketが機能するとは、各部門が活動していることではありません。一つの行動が、次の有効な行動を生む状態が続いていることです。
現在の動き方を生んでいた条件
実際のGo-to-Marketを見ていくと、いくつかの接続条件が揃っていませんでした。
ターゲットの定義が、機能ごとに異なっていた
資料上では、ターゲット市場や顧客像が定義されていました。
- しかし、マーケティングにとってのターゲットは、反応を得やすい企業でした。
- 営業にとっては、予算があり、短期間で受注可能な企業でした。
- プロダクトにとっては、機能を活用し、継続的に価値を得られる企業でした。
同じターゲットという言葉を使っていても、各機能が見ている条件は異なっていました。
提供価値が、経路の途中で変わっていた
- マーケティングは、広く関心を得られるメッセージを使っていました。
- 営業は、個別案件を進めるために、顧客ごとに別の価値を説明していました。
- プロダクトは、さらに異なる利用価値を想定していました。
顧客が最初に関心を持った理由と、営業が提案する理由と、導入後に得られる価値が、一つの流れとして接続されていませんでした。そのため、営業が案件ごとに価値をつなぎ直す必要がありました。
顧客の状態を表す共通基準がなかった
マーケティングは、資料請求やイベント参加を関心の表れとして扱っていました。営業は、予算、決裁者、導入時期を見ていました。しかし、顧客が何を理解し、何をまだ判断できていないのかについて、共通の見方がありませんでした。
営業へ渡された時点で、顧客がまだ検討の準備をできていないこともありました。反対に、重要な兆候があっても、定められたスコアに現れないため、営業へ渡されないこともありました。
受け渡しが、件数で定義されていた
マーケティングから営業へ何件渡したかは管理されていました。しかし、次の役割が行動できるために何が揃っていなければならないかは、十分に定義されていませんでした。
- 顧客の課題。
- 関心を持った理由。
- 社内の関係者。
- 判断を止めている条件。
- 次に確認すべきこと。
これらが不足したまま案件が渡されるため、営業は最初から情報を集め直していました。形式上は受け渡しが完了している。しかし、次の行動が始められる状態にはなっていませんでした。
全体を完結させる責任がなかった
各部門には、それぞれの目標がありました。しかし、顧客が最初の接点から価値獲得まで進む一連の経路について、誰が成立を確認するのかは曖昧でした。
- マーケティングは営業へ渡したところで完了する。
- 営業は契約したところで完了する。
- プロダクトは機能を提供したところで完了する。
各部門の仕事は完了していても、顧客側の変化が完結しているとは限りませんでした。
フィードバックが構造化されていなかった
受注や失注から得られた知識は、営業担当者の中には残っていました。
しかし、その知識が、
- ターゲットの修正
- メッセージの修正
- コンテンツの修正
- プロダクトの判断
- 顧客選別の基準
へ戻る経路が安定していませんでした。会議で共有されることはあっても、次の行動条件を書き換えるところまで接続されていませんでした。そのため、同じ発見が案件ごとに繰り返されていました。
時間の前提が揃っていなかった
- マーケティングは、短期間で反応やリード数を求められていました。
- 営業は、四半期内の受注を求められていました。
- プロダクトは、中長期の顧客価値を見ていました。
各機能が成果を求められる時間軸が異なるため、将来の案件形成よりも、短期で数字になる行動が優先されました。Go-to-Market全体として必要な時間と、各機能が評価される時間が一致していませんでした。
正しいもの同士が、つながっていなかった
このケースでは、どこか一つの部門が間違っていたわけではありません。
- マーケティングがリードを増やすことは正しい。
- 営業が受注確度を重視することも正しい。
- プロダクトが長期的な顧客価値を見ることも正しい。
問題は、それぞれの正しさが、同じ顧客変化を成立させる関係として配置されていなかったことです。各機能の正しさが接続されていないと、その間を人が埋める必要があります。
- ターゲットの解釈を揃える。
- 価値を翻訳する。
- 情報を補う。
- 案件の優先度を調整する。
- 顧客の停滞理由を推測する。
トップ営業やマネージャーが行っていた個別調整は、個人の問題ではありませんでした。つながっていない機能を、案件ごとにつなぐために必要な行動でした。
Go-to-Marketを「流れ」にしていたのは、人だった
資料上では、マーケティング、営業、プロダクトのプロセスが定義されていました。しかし、実際に案件を前へ進める際には、トップ営業や一部のマネージャーが、
- 顧客像を解釈し直す
- 提供価値を案件に合わせて組み替える
- 不足している情報を取りに行く
- 社内の関係者を動かす
- 顧客側の意思決定経路を見つける
- プロダクトとの期待値を調整する
ことによって、分断された機能を一つの流れにしていました。Go-to-Marketの仕組みが案件を進めていたのではありません。人が、案件ごとにGo-to-Marketをつくり直していたのです。
施策を増やしても、接続条件が同じなら流れは生まれない
この状態で広告を増やせば、リードは増えるかもしれません。
しかし、営業が行動できる情報が揃わないままなら、活用されないリードも増えます。
営業人員を増やしても、価値の翻訳や案件の見極めを個人に委ねたままなら、成果のばらつきも増えます。
CRMを更新しても、顧客の状態や受け渡し条件の定義が変わらなければ、入力される項目が増えるだけになる可能性があります。
新しい価格やパッケージをつくっても、どの顧客のどの判断を前へ進めるものなのかが揃っていなければ、営業が再び個別に説明を組み替えます。
個々の施策を改善しても、機能間の接続条件が変わらなければ、同じ調整が別の場所に戻ります。
実装が満たすべき条件を先に定義する
このケースで必要だったのは、すぐに新しい施策を選ぶことではありませんでした。先に必要だったのは、どのようなGo-to-Marketの挙動を生みたいのかを明確にし、その挙動が成立するために、どの実装にも共通して必要な条件を定義することでした。
例えば、次のような条件です。
- ターゲット顧客が、企業属性だけでなく、抱えている問題と変化の状態まで含めて定義されている
- 顧客が最初に理解する価値と、営業が提案する価値と、導入後に得る価値が接続している
- 顧客が現在どの状態にあり、次に何を理解・判断する必要があるかを、機能をまたいで共有できる
- 次の役割が行動を始めるために必要な情報が定義されている
- 受け渡しの完了が、件数ではなく、次の行動が開始できる状態で判断される
- 顧客が停滞した場合の判断先と、前工程へ戻す経路がある
- 受注・失注・継続利用から得られた知識が、ターゲット、メッセージ、営業判断、プロダクトへ戻る
- 部門ごとの評価が、Go-to-Market全体の流れを分断しない
- 短期的な成果と、中長期の案件形成を区別して観測できる
- 特定の営業担当者が価値や経路を毎回つくり直さなくても、案件が前進する
- 市場タイミングや既存関係による成果と、仕組みから再現された成果を区別できる
- 施策変更後に、調整や解釈の負担が別の機能へ移っていないかを観測できる
これらは、特定のマーケティング施策や営業手法の要件ではありません。広告、コンテンツ、CRM、営業体制、パートナー戦略、価格改定、プロダクト変更のいずれを選ぶ場合にも、その実装が満たす必要のある条件です。
観測によって変わったのは、「どこが問題か」という見方だった
当初は、
- マーケティングの問題なのか。
- 営業の問題なのか。
- プロダクトの問題なのか。
という問いが置かれていました。しかし、現在の動き方を見ていくと、問題はどれか一つの機能の中にあるわけではありませんでした。
- ターゲットの解釈
- 提供価値の翻訳
- 顧客状態の判断
- 情報の受け渡し
- 成果が出るまでの時間
- 知識が戻る経路
これらが機能をまたいで接続していないことが、断続的な成果と人による調整を生んでいました。見えていたのは、部門ごとの結果でした。見えていなかったのは、結果と結果の間で、次の行動が生まれる条件でした。
「施策を動かす」から、「顧客が進む流れが動く」へ
このケースで必要だったのは、各部門の活動量をさらに増やすことではありませんでした。必要だったのは、一つの機能の行動が、次の機能の有効な行動を生み、顧客の判断が次の段階へ進む状態です。
- 戦略はある
- プロダクトもある
- マーケティングも営業も動いている
- 案件も出ている
それでも、成果を積み上げるために、トップ営業や一部のマネージャーが案件ごとにつなぎ直しているなら、次の施策を追加する前に見るべきものがあります。
今の成果を、何が成立させているのか。どこで、一つの機能の行動が次の行動へつながらなくなっているのか。そして、顧客と組織の行動が一つの流れとして生まれ続けるために、次の実装は、どの条件を満たさなければならないのか。
構造ディスカバリー
構造ディスカバリーは、一つの成果や運用を起点に、現在の実際の動き方を生んでいる条件を、経営者とキーメンバーで観測する120分のセッションです。
Go-to-Marketを扱う場合も、戦略や施策の良し悪しを評価する場ではありません。
- 実際の案件は、どの経路で生まれ、前へ進んでいるのか
- マーケティング、営業、プロダクトの間で、何が引き継がれているのか
- 次の役割が動くために、誰が情報や意味を補っているのか
- トップ営業は、標準プロセスにない何を行っているのか
- 成果のうち、仕組みから生まれたもの、人の調整で生まれたもの、市場条件に助けられたものは何か
- どこで力が次の行動へ変わらず、確認、再解釈、調整に使われているのか
- Go-to-Marketが一つの流れとして動くために、次に定義すべき条件は何か
これらを構造仮説として言葉にし、望む挙動の成立条件を本格的に定義する必要があるかを判断します。
